【展覧会情報】森美術館「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」
森美術館では現在、開館20周年記念展「ワールド・クラスルーム:現代アートの国語・算数・理科・社会」が開催されています。
展覧会のテーマ・みどころ
現代アートは学校の教科で考える図画工作や美術といった枠組みをこえ、むしろ国語・算数・理科・社会などのあらゆる科目に通じるものとなってきました。
本展は現代アート作品を通して未知の世界に多様な観点から出会い、学べる展覧会です。
現代美術史における重要な作品や、世界的なアーティストの新作など、合計54組のアーティストの作品が展示されています。
出展作品約150点のうち、半数以上を森美術館のコレクションが占めます。また、本展のための新作も披露されています。
展覧会は「国語」、「社会」、「哲学」、「算数」、「理科」、「音楽」、「体育」、「総合」の8つのセクションに分かれています。
学校で習う教科ごとに分けて展示するのは面白い試みですね。
セクション1「国語」
「国語」のセクションでは、言葉や言語をテーマにした作品、文学や詩の要素を含む作品が紹介されています。「言語」はコンセプチュアル・アートの流れのなかで頻繁に使われてきました。コンセプチュアル・アートの提唱者のひとりであるジョセフ・コスース、また言語を取り巻く政治性や社会性を題材としたスーザン・ヒラー、国籍や人種、ジェンダーというアイデンティティをテーマとするミヤギフトシや、米田知子、ワン・チンソン(王慶松)、イー・イランの作品が展示されています。
イー・イラン《ダンシング・クイーン》
セクション2「社会」
本展で最も大きなボリュームを占める「社会」セクション。「社会彫刻」という概念を提唱したヨーゼフ・ボイスが来日した際に残した黒板から始まり、世界各地の歴史、政治、地理、経済、アイデンティティに関わる課題が取りあげられています。美術史を主題としたアイ・ウェイウェイ(艾未未)や森村泰昌、戦争や暴力、災害が残したものに向き合うディン・Q・レや藤井光、畠山直哉、そして日本では初展示となるパーク・マッカーサーの新作、田村友一郎、ク・ミンジャの経済についての作品が展示されています。
アイ・ウェイウェイ(艾未未)《漢時代の壷を落とす》《Coca Cola Vase》
ヴァンディー・ラッタナ《コンポントム(「爆弾の池」シリーズより)》
セクション3「哲学」
生きることや世界の真理、普遍性を探究する哲学の分野は、古くから美術と非常に深い関係にありました。本セクションには、明滅するLEDのカウンターによって仏教的な死生観をあらわす宮島達男、ものの存在や周囲との関係性を追求してきた李禹煥(リ・ウファン)、そして奈良美智の祈りをささげているかのような少女を描いた絵画などがあります。
李禹煥(リ・ウファン)《対話》《関係項》
奈良美智《MissMoonlight》
セクション4「算数」
算数あるいは数学は、極めてクリエイティブな領域でもあり、数字は多くのアーティストが扱ってきた普遍的なテーマである「時間」にも深く関係します。本セクションでは、フィボナッチ級数をネオン管で表したマリオ・メルツの大型作品、片山真妃、杉本博司の作品、そして数学的な概念をパフォーマンスに投影した笹本晃の映像作品が見られます。
杉本博司《観念の形》
セクション5「理科」
物理、生物、化学など、自然科学の領域とも、現代アートは無関係ではありません。さまざまな日用品が次々に連鎖反応を起こし、エネルギーを伝達してゆく様子を捉えたペーター・フィッシュリ&ダヴィッド・ヴァイスや瀬戸桃子の映像作品、ナフタリンを用いた宮永愛子の新作や、ブラックライトを使用した田島美加の作品などが展示されています。
宮永愛子《Root of Steps》
田島美加《アール・ダムーブルモン(アラベケ)》《アール・ダムーブルモン(カレナ・マイヒバ)》
蓄光顔料が使用されていて、光の明るさによって見え方が変化します。
セクション6「音楽」・7「体育」
「音楽・体育」のセクションでは、前期と後期に分けてさまざまな作品がスクリーン上映されています。
現代アートには音や音楽に関連する視覚的な要素を主題にする作品や、音や音響の意味や仕組みを考えさせるコンセプチュアル・アートがあり、実際に音を体験するもの、または音の不在を体感するものもあります。ジョン・ケージの《4分33秒》を流用するマノン・デ・ブールの映像作品は、ピアニストと観客の両方に焦点を当て、沈黙の時間を演出します。また、アフガニスタンの夜景にイスラム教の詠唱が流れるアジズ・ハザラの詩的映像、旧ユーゴスラビアで内戦後に生まれた子供たちが「マジカル・ワールド」を歌うヨハンナ・ビリングの作品、黒人女性を想起させる手の動きやサウンドに焦点をあてたマルティーヌ・シムズの作品などが紹介されています。
現代アートにおける身体的な運動や行動に着目した表現、身体そのものの作品化は、1960年代から「パフォーマンス」としてその位置づけを確立し、今日では映像作品の主題となることもしばしばです。クララ・リデンはバレエを通じて規範と模倣を表現。クリスチャン・ヤンコフスキーの作品は歴史とそこからの解放といった「身体の政治性」を表しています。さらに本展では、競技が行われるスタジアムの建築的な特徴や、マスメディアで映し出されるスポーツにも焦点を当てています。
「音楽・体育」セクションは撮影禁止でした。
セクション8「総合」
最後のセクションである「総合」では、ひとつの科目に収まらず、より幅広い領域を横断するような作品やプロジェクトが紹介されています。現在、世界で最も注目を集めるアーティストのひとりであるヤン・ヘギュと、デンマークを中心に世界的に活躍するヤコブ・キルケゴールの新作が展示されています。また、演劇に基づいた方法論をもとに、東京の日常的な景色を私たち自身の意識によって変容させてゆく高山明のプロジェクトを紹介しています。
ヤン・ヘギュ《ソニック・ハイブリッド──デュアル・エナジー》
さまざまな角度から現代アートを分析した展覧会で、新たな発見があり、勉強になりました。
幅広い作品が紹介されているので、ぜひお気に入りの作品を探しに行ってみてください。
【開催概要】
「ワールド・クラスルーム」は9月24日(日)まで。
森美術館のへザウィック・スタジオ展と六本木アートナイトもおすすめ
六本木ヒルズの東京シティビュー(屋内展望台)で6月4日まで開催中の「へザウィック・スタジオ展:共感する建築」もおすすめです。
美しいデザインを見ながら、世界中を旅しているような気分になれました。
そして展望台からのいい眺めが楽しめます。
5月27日(土)と28日(日)には六本木アートナイトも開催されます。