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【古代エジプトの絵画】死後の世界を重視したエジプト美術

見ればすぐにそれとわかる、古代エジプト美術の独特な表現。何を意味しているのでしょうか?

© The Trustees of the British Museum

エジプト美術の特徴

メソポタミア文明と同じころ(紀元前3000年ごろから)、ナイル川流域ではエジプト文明が栄え、3000年にもわたって独特の文化を築いていました。

 

エジプト美術の最大の特徴は、無名の作家たちが約2500年にもわたり厳格な様式にしたがって作品を作りつづけたことです。また、生きている人のためではなく、王の魂が死後も永遠に生き続けるように作られた、というのもエジプト美術の特徴です。

 

天体や自然のなかに存在する神々、神の子である王(ファラオ)、死者の復活や永遠の生命といった古代エジプトの宗教概念は長い歴史の中でほとんど変わりませんでした。そして、それを表現するための美術も、決められた形式を守ることが大切で、独創的なことは求められませんでした。したがってエジプト美術は何千年もの間、ほとんど変化しませんでした。

 

例外は、宗教改革をおこないアマルナに都を移したアメンホテプ4世の時代のアマルナ美術です。それまでの厳格な形式性から解放されたリアルな表現が用いられました。

 

古代エジプトでは、王や貴族の墓、木棺、パピルス、陶片などに絵画が描かれました。

その際に追及されたのは、永遠にふさわしい人体の表現でした。時代によって若干変化はあるものの、主に次のようなルールが存在しました。

  • 頭や胴体、足は一定の比率で描く。
  • 地位の高い人物は、より大きく描く。
  • 顔は横顔とするが、目は正面を向いて描く。
  • 肩、胸、腕は正面を向けて描くが、胴体と足は横向きとする。
  • 足は左右の区別が付くように描き分けない。土踏まずを描く場合には、両足に描く。
  • 遠近法を使わないが、集団を描くときには上下左右にずらして、少しずつ重ねて描く。

絵にあらわされた人が平たく、ねじれたように見えるのは、こうしたルールにしたがっていたからなんですね。

ただし、鳥や木などの自然描写は驚くほど精密です。

 

王国の衰退とともにエジプト美術も衰え、紀元前332年アレクサンドロス3世によってエジプト征服がなされると、ギリシア美術の影響の中に消えていきました。